三方よし通信
子供の頃に観ていたアニメ『パーマン』の「コピーロボット」を覚えていらっしゃいますか?
赤い鼻をポチッと押すと、自分そっくりのロボットに変身して、学校の授業や家の留守番を代わってくれる。その間にパーマンは、平和のために空を飛んでいく。私も子供心に、「あんなロボットがいてくれたら、宿題を任せてずっと遊んでいられるのになぁ」なんて妄想していました。
ちなみに、あのロボットの鼻がなぜ赤いかご存知ですか?
なんでも「スイッチであることが一目でわかるように」という、作者の藤子・F・不二雄先生の優しさ溢れるデザインなのだそうです。
そんな子供の頃の空想が、今や現実になろうとしています。
最近、まさに現代のコピーロボットとも言える、非常に興味深い技術の話を聞きました。それは、経営者の理念や哲学をAIに学ばせ、いわば「AIの社長」を作り出す、というものです。DeNAの南場智子社長も講演の中で自分の分身AIを作って社員に気軽に相談させていると仰ってました。
社員が何か困ったとき、この「AI社長」に相談すると、まるで私がそこにいるかのようにアドバイスをくれる。採用面接では、学生さんが「AI社長」と対話することで、会社の文化や雰囲気を深く知ることができる…。中小企業の経営者は、毎日が時間との戦いです。社員一人ひとりと、もっとゆっくり話がしたい。お客様のところに、もっと頻繁に顔を出したい。でも、現実はなかなかそうもいかない。そんな時、「AIの私」がいてくれたら、確かに助かる場面は多いかもしれません。
特に、いつか会社を次の世代に引き継ぐことを考えたとき、この技術は大きな意味を持つかもしれません。
私たちが後継者に本当に託したいのは、会社の資産や人的資源だけではないはずです。創業のときに抱いたあの熱い想いや、お客様との何気ないやり取りの中で学んだこと、失敗して悔しい思いをしたからこそ生まれた哲学や知恵…。でも、こういう「目に見えないもの」ほど、言葉で伝えるのは難しいのではないでしょうか。
その点、「AI社長」は、私がこれまで発してきた言葉や文章をすべて記憶し、その背景にある想いまでをも再現してくれる、と言います。いつでも創業の精神に立ち返れる「会社の灯台」のような存在になってくれるのかもしれません。技術的にはもうすでに可能でNotebookLMなどを使えば、自分が過去に発信した文章やプレゼン資料、動画をすべて読み込ませて、自分の考え方をすべて理解したAIチャットボットを作ることは、コストも掛からず簡単にできる時代になりました。
ただ、色々と考えているうちに、ふとこんな疑問も湧いてきます。
AIは、私の成功パターンは真似できても、私が過去にした大きな失敗や、その時の「どうしようもなく悔しい気持ち」まで再現できるのでしょうか。部下を厳しく叱った後、一人で社長室に残って「あんな言い方しなくても良かったかな」と悩んだ、あの時間まで。
会社の歴史や文化って、実はそういうキラキラしていない、泥臭い部分にこそ、大切な何かが詰まっている気がするんです。データには残らない、人間の感情の機微。AIが、そこまでをも継承できる日は来るのでしょうか。
パーマンは、家に帰るとコピーロボットのおでこと自分のおでこをくっつけて、留守中の出来事を共有していました。社員さんや後継者とおでことおでこをくっつけてこれまでの経験を共有できる。AIがこんな世界を実現しようとしています。そんな未来の会社の風景を、子供の頃に夢見たコピーロボットを思い出しながら、考えていました。